最新人事労務耳寄り情報ー出向命令が無効に?
- 法律事務所アイディペンデント

- 11 分前
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出向は雇用調整、中高年従業員の処遇、従業員のスキルアップなどを目的として現在では日常的に行われるようになっています。
出向を対象とした助成金制度(産業雇用安定助成金)も導入され、国も出向をサポートしています。
しかし、出向は労働者に対する指揮命令の主体が変更されるなど単なる転勤とは異なります。法的には転勤よりはるかに慎重な対応が求められ、これを誤ると出向命令自体が無効になるリスクがあります。
実際、令和7年6月26日東京地方裁判所判決(図書館流通センター事件)では、出向命令が権利濫用として無効とされています。
出向を命じる際、次の2つの要件を満たしている必要があります。
第1に、出向命令権の根拠があることです。原則として労働者の個別的同意なく出向を命じることはできません。例外的に労働協約と就業規則に出向命令権を根拠づける規定が存在し、労働者の不利益を防止する制度・措置の整備が存在する場合には、包括的同意があったものとして個別的同意までは不要です(最高裁平成15年4月18日(新日本製鐵事件))。
第2に、権利濫用に当たらないことです。労働契約法第14条は、出向命令がその必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして権利の濫用と認められる場合には、その命令を無効としています。第1の要件を満たしてもその行使が不当であれば無効となるのです。
図書館流通センター事件では後者を満たしていないと判断されてしまいました。
同事件では、出向延長命令が権利濫用とされた理由として以下の4点が挙げられました。
①業務上の必要性が不明確
会社側は「一般従業員の本給上限額は年額750万円であり、年額900万円の賃金水準を維持して雇用するのは不可能」「賃金水準に見合うポストがない」と主張しました。しかし裁判所は、この上限は内部規程で厳格に定められたものではなく、実際に750万円を超える従業員が47名もいることを指摘。さらに、出向中に面談も人事評価も行っておらず、労働者の現在の能力を把握していないとして、必要性の根拠が不十分と判断しました。
②対象者選定の検討がない
当該社員だけが出向対象となっており、他の候補者との比較検討が行われていませんでした。なぜその労働者を選定したのか、合理的な理由が求められます。
③労働者への不利益が過大
労働者は約26年間にわたって図書館向け図書の営業業務に従事し、取締役や関連会社の代表取締役も務めてきました。しかし出向先では、長年培った知識・経験・能力を発揮できない単純な事務作業やデータ入力等の業務に従事させられていました。
さらに、当初3年間とされていた出向期間が、定年退職日までの3年以上に延長されたことについて、裁判所は「被告への復帰の途を閉ざし、職場から放逐する帰結になる」と厳しく評価しました。賃金が維持されていても、キャリア形成や職業生活上の精神的負担という不利益は大きいのです。
④手続の不備
出向(延長)の面談において、会社側は「延長について理解してほしい」と伝えるのみで、延長が必要な理由について具体的な説明を行いませんでした。裁判所は「出向の延長を行うに当たって適切な手続は全く履践されていなかった」と判断しています。
出向は雇用維持や人材育成に有効な手段ですが、労働者にとっては職場環境、業務内容、人間関係など、大きな変化を伴うものです。「労働協約、就業規則に規定があるから」「辞令を出したから」という形式的な対応ではなく、なぜその出向が必要なのか、労働者にとってどのような意味があるのかを丁寧に説明し、理解を得る努力が不可欠です。そしてこれらの努力を尽くしたことを証拠に残しておく必要があります。
Written by 法律事務所アイディペンデント










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