最新人事労務耳寄り情報ー経歴詐称の疑いと解雇
- 法律事務所アイディペンデント
- 12 分前
- 読了時間: 3分

採用した従業員の経歴詐称の疑いが生じた場合、会社としては「騙された!」という思いから即座に解雇したくなるのが当然の心情です。
しかし、最近の裁判例(Aston Martin Japan事件・東京地裁令和6年11月27日判決)は、このような場合に慎重に対応しなければならないことを改めて示したもので、実務上参考になります。
同事件は採用した従業員が経歴を詐称したとして解雇したという事案です。
会社は解雇の理由として当該従業員が
①英国籍であるにもかかわらず日本国籍であると偽ったこと
②前職における年間給与総額が約600万円にすぎないのに約700万円であると述べたこと
③前職において秘密情報の持出しを行ったにもかかわらず,その事実を否認する本件誓約書を提出したこと
などを主張し解雇は有効であると争いました。
世間一般の感覚からするとこのような疑いが生じた時点で即座に解雇したくなるのは当然です。
しかし裁判所は解雇を無効としました。
裁判所は
①については「当該従業員が日本国籍を有することは会社の採用条件となっておらず、また採用過程において、会社が従業員に対して国籍を確認したり、従業員が自ら日本国籍であると会社に告知したと認めるに足りる的確な証拠はない」としました。
②については「会社の採用過程において年収700万円という事実が重視されていたとはうかがわれず、またその金額の差異も大きいものでないことからすると、採否の判断を誤らせるほどの重要な事実とはいえない」としました。
③については「秘密情報の持ち出しに関する会社による調査の具体的な内容は明らかでなく当該従業員による情報の持出しの事実があったと認定することには疑問がある」「仮に持ち出しがあったとしても持ち出した対象は職務経歴書であり、当該従業員が提出した誓約書の対象にこの職務経歴書が該当するかも疑問がある」としました(誓約書では「秘密情報」が「関係当事者の顧客リスト、マーケティング情報、技術データ、企業秘密、ノウハウその他専有情報」と定義されており、職務経歴書が秘密情報に該当するかは確かに不明確です)。
いずれも会社側にとって厳しい判断です。
実務上、すべての経歴詐称が解雇理由になるわけではありません。
解雇理由となるのは、あくまでも使用者による能力や人物評価を妨げ継続的な労働契約関係における信頼関係を損ねるような重要な経歴詐称に限られます。
そのため単に経歴詐称の疑いがあるだけでは解雇はできず、経歴詐称がありかつそれが重要なことまで証拠化しておくことが必要です。
本件の場合でいえば
・疑い発覚前には
リファレンスチェックを徹底すること
採用過程を証拠化しておくこと
・疑い発覚後には
疑いの段階で解雇しないこと
本人に事情聴取の機会を必ず設けること
前職への照会、的確な内容の誓約書の徴収などの証拠収集
詐称内容と業務遂行能力との関連性の確認
が必要でした。
経歴詐称は確かに信頼関係を損なう行為ですが、法的には必ずしも解雇が認められるわけではありません。
採用時の確認強化と発覚時の適切な対応手順の確立がトラブル防止の鍵です。
Written by 法律事務所アイディペンデント
Comments