
就業規則の変更は実務において頻繁に行われる重要な手続です。しかしその際に必要となる従業員からの意見聴取は時に形だけのものなりがちです。
労働基準法第90条では、使用者は就業規則の作成・変更に際して、①労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、②そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないと定めています。
この手続を軽視すると思わぬトラブルにつながります。
最近の裁判例(釧路地裁帯広支部令和5年6月2日判決)でも、過半数代表者の選出手続の瑕疵が就業規則変更の無効原因となると判示されました。この事案では、従業員代表者の選出が民主的な手続(投票や挙手等)によって行われていなかったことが問題とされました。
就業規則の変更にあたっては実務的には以下の点が重要です。
・過半数代表者の適切な選出
①選出目的を明確に周知すること
②投票や挙手など民主的な方法で選出すること
③選出過程を記録として残すこと
④管理監督者は過半数代表者になれないことに注意
・意見聴取の具体的手順
①変更案を事前に配布し、十分な検討時間を確保
②説明会の実施など、変更内容の丁寧な説明
③従業員からの質問・意見に対する誠実な対応
④意見聴取の過程を議事録等で記録
・意見書の取得と保管
①過半数代表者からの意見を書面で得ること
②意見書には日付、代表者の署名・押印を得ること
③意見書のコピーを社内で適切に保管
なお、法律上求められているのは「意見を聴く」ことであり、「同意を得る」ことまでは要求されていません。
ただ手続に誤りがあると、後々の労使紛争のリスクを高める可能性があります。
前述の裁判例でも就業規則の変更が無効となった結果、三六協定も無効となり割増賃金の請求が認められました。
就業規則の変更が従業員の労働条件に関わる重要事項であることが裁判例の厳しい姿勢の背景にあります。
できるだけ丁寧な説明と意見聴取を心がけましょう。
Written by 法律事務所アイディペンデント
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