
企業には従業員の安全と健康を守る「安全配慮義務」があります。この義務を怠ると、不幸な事故が発生し、また高額な損害賠償請求を受ける可能性があります。
宮崎地裁令和6年5月15日判決の事例はルート営業を担当していた従業員が心停止により亡くなったケースです。
当該従業員の労働実態は以下のような負荷の高いものでした。
・月45時間を超える時間外労働が継続
・直前1週間で3回の県外出張
・クレーム対応による精神的負荷
裁判所は、これらの負荷が重なって死亡に至ったと認定し、会社に安全配慮義務違反があったとして約1200万円の賠償を命じました。
裁判所が安全配慮義務違反を認定した理由は大きく分けて2つです。
・労働時間管理の不備
作成されていた勤務表では「9:00~18:00」と画一的に記載されており、実態を反映していないことは明らかでした。それにもかかわらず会社はこの自己申告を漫然と放置し、また実態把握の努力もしませんでした。
・業務負荷への対応不足
当該従業員は連続出張や突発的クレーム対応による業務負荷が増加していました。会社はこれについて認識・予見可能だったにもかかわらず業務軽減等の措置を講じませんでした。
不幸な事故を防ぐためのポイントとしては以下が挙げられます。
① 労働時間の適切な把握
✓ 形式的な自己申告に頼らない
✓ 客観的な記録(PCログ等)を活用
✓ 実態と申告内容に乖離がある場合は調査
②業務負荷の総合的な評価
✓ 時間外労働だけでなく、出張頻度も考慮
✓ 精神的負荷(クレーム対応等)にも注目
✓ 複数の負荷要因が重なる場合は特に要注意
③予防的な措置の実施
✓ 月45時間超の時間外労働者には要注意
✓ 出張が集中する場合は休息確保を配慮
✓ 産業医面談を積極的に活用
④具体的な負荷軽減措置
✓ 業務分担の見直し
✓ 応援要員の手配
✓ 出張スケジュールの調整
✓ 必要に応じた要員増
裁判所は、単に労働時間だけでなく、出張による不規則勤務やクレーム対応など、複合的な負荷要因を考慮しようとします。
企業としては、労働時間管理の形骸化を避け、従業員の業務負荷を総合的に評価・管理することが重要です。特に、複数の負荷要因が重なる場合は、早めの対応が必要です。
従業員の健康管理は、企業にとってリスク管理であると同時に、人材の確保・定着にも直結する重要な経営課題です。安全配慮義務の観点から業務フローを見直してみてはいかがでしょうか。
Written by 法律事務所アイディペンデント
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