誰もが手軽にSNSに投稿できる現代では、少しでも容姿がよく映るよう写真に修正を施す方が増えてきました。
最近では加工なしの写真は恥ずかしいから卒業アルバム用の学校行事の写真すら撮りたくないという学生もいるほどです。
では、選挙の候補者ポスターの顔写真に修正を加えることは可能でしょうか。
公職選挙法上、候補者ポスターの写真やその修正の程度について正面から制限はありません。シワもシミも目や顔の大きさも自由に修正することができます。
公営掲示板に貼られた候補者ポスターの容姿端麗さに目を奪われ、この候補者に投票してみようと思う有権者もいるでしょう。
ところが、街頭演説で本人を見て「別人じゃないか!」とビックリ仰天、だまされた気分になることも・・・。
候補者ポスターの写真修正は例えば他人の著作権や肖像権を侵害しているなど、他の法律に違反するような場合でない限り原則自由です。
そもそも候補者ポスターに写真を載せなければならないという義務さえありません。
では、修正を飛び越えて自分の赤ちゃん時代の写真を使ったらどうでしょう?
公職選挙法では候補者の経歴などについてウソの公表をすることが禁止されています(虚偽事実の公表罪。公職選挙法235条1項)。これに当たらないのでしょうか。
平成21年、麻生内閣時代の国会答弁があり、候補者本人の過去の写真を掲載することは、虚偽事実の公表には当たらないとされています。
ではさらに調子に乗って、
①自分が演じているVチューバーの画像だったらどうでしょう?
②人間ですらなく、自分の飼い犬の写真だったらどうでしょう?
③自分と関係ない有名芸能人の写真を使ったらどうでしょう?
一発ギャグとしては面白いかもしれません。
しかし、平成6年最高裁の判決では、虚偽事実の公表罪の「経歴」について「公職の候補者又は候補者になろうとする者が過去に経験したことで、選挙人の公正な判断に影響を及ぼすおそれがあるものをいう」(平成6年7月18日最高裁判決)とされています。
事実と異なり「スイスでボランティアの勉強をした」「学生時代に公費留学生として選ばれた」としただけで虚偽事実の公表に当たる、とされています。
ずいぶんと広いですね。
①、②はギリギリセーフかもしれませんが、③は虚偽事実の公表に当たる可能性があります。その有名芸能人と親しかったという経歴がある、あるいはその芸能人から支持されていると受け取られないからです。
もちろんその芸能人の許可を得ていなければ肖像権侵害となり、この点でも違法です。
有権者の投票行動は候補者ポスターの写真に大きく影響を受けます。
ポスターの写真が笑顔かそうでないかにさえ影響を受けるという調査結果があります。
シワやシミを消す程度の修正であれば許容されるとしても別人レベルまで修正すると有権者に悪印象を持たれてしまいます。
誠実な印象を与えることは得票に繋がるので過剰な修正は控えるべきでしょう。
一方、選挙公報にも候補者の写真が載っています。
選挙公報の場合は候補者ポスターと少々事情が異なり、「候補者の写真」を掲載しなければならないと明示されています(公職選挙法167条)。
選挙公報の写真については選挙管理委員会が事前に掲載する顔写真のルールを定めていることが多いです。
写真の撮影時期が投票日前の6か月以内、無帽、背景が無地であることなどです。
選挙公報も投票行動に影響を与えます。
お気に入りの「奇跡の1枚」を使いたくても使えない可能性がありますから、あらかじめ選挙管理委員会に確認しておくとよいでしょう。
Written by 行政書士事務所アイディペンデント
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